#59 ロールキャベツ ~就職・将来に悩む大学生ストーリー

本の表紙

(森沢明夫、徳間文庫)

「あたしの好みはーー。せやなぁ、ど田舎とはいえ、一応あたしも関西の人間やし、やっぱ大阪のおばちゃんみたいな感じの人かなぁ……。」

「大阪のおばちゃんって」

もちろん冗談だと思って俺は笑った。ところがパン子は、冗談を言ったつもりなど毛頭ないようで、淡々と続けたのだ。

「ようするにアレや。打算とかナシで、ただ、自然とおせっかいを焼いちゃうタイプの人やな」

「………」

「泣いとる子がおったら、当然のように近づいていって、『あらあら、どしたん?おばちゃんがおるから大丈夫やでぇ』って飴ちゃんを握らせる感じ?」

「そしたら、たまたまだけど、いまの日本の子どもって、ほぼ六、七人に一人が貧困家庭で育てられて、充分にご飯を食べられないでいるってことを知ったんだよね」

貧困には絶対的貧困と相対的貧困がある。相対的貧困は、国平均の水準を下回っている状態。

OECDによると、2021年の日本の相対的貧困率は15.7%。

「あはは。せやね。でも、ほら、あたしはさ、事故で亡くした両親に、色んなことを伝えられないまま永遠に会えなくなったんよ」

「…………」

俺は、すぐには返事ができなかった。

するとパン子は、ふたたび星空を見上げた。

「多分、やけどーー、誰かに伝えたいことを伝えられるって、それだけできっと幸せなことやん?」

この台詞を耳にしたとき、一瞬、呼吸を忘れた気がした。

ニンジンの皮を剥きはじめていた母は、ピーラーを動かしたまま「ん?」とこちらを見た。少し細められた母の目ーーそれを見たとき、俺の脳裏に「慈愛」という言葉が浮かんだ。思えば俺は幼い頃からずっと、この穏やかな眼差しを向けられながら生きてきたのだ。いつも美味しそうな匂いで満たされた、愛着あるこの空間で。

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この記事を書いた人

2004年生まれ。大学3年生。好きな種目はディップス。2025年Shape Fit Festival Men's One Shape 3位。

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