(三田誠広著、集英社文庫、1991年10月25日初版発行)
ぼくの顔を見ると、直美が嬉しそうに言った。この前と同じように、ダルマさんみたいな格好で、ベッドの上に座り込んでいる。
「でも、病気じゃない人には、わからないわね。あたしに与えられたリストは、病気、病気、病気、これだけ。自殺する権利もないのよ。だって、自殺したって、病気のせいだと思われるでしょ。自殺って、元気な人がやらないと、誰も驚かないものね」
「可能性がある人がうらやましい。自殺のことを考えるなんて、贅沢だわ」
運命が、あなたをあたしの前に連れてきたのよ。だからあたしは、この運命を、喜んで受け入れようと思うの
「いまおれは、哭いている。明日も哭く。明後日も哭くだろう。だが、半月後はどうだろうか。おれは、自信がもてない。そして半年たてば、高校に入って、野球のトレーニングが始まる。ファンの女の子がおれを囲む。甲子園に出られたら、おれはスターだ。誘惑も多いだろう。おれはいつか、誘惑に負ける。そんな予感がする」
言葉の意味
- サッシ…金属製の窓枠。
- だしぬけ…物事が思いもかけずに起こること。
- 内ゲバ…組織内で行われる暴力的な闘争。
- 跨線橋(こせんきょう)…線路を跨いで架けた橋のこと。
- プロダクション…映画やテレビ番組、出版物などの制作会社。芸能人その他の人材を集めて、興行や事業を行う組織。
- 超然…世俗的な物事にこだわらないさま。
- 割合…割と。ex)割合元気だった。
- センチメンタル…ちょっとしたことを見たり聞いたりするにつけ、すぐに自分の心情と結びつけて、しんみりしたり、涙もろくなったりする様子。
リンク



コメント