(浅倉秋成著、角川文庫)
信号無視をしたから悪い人。
募金箱にお金を入れたからいい人。
ゴミを道ばたにポイ捨てしたから悪い人。
被災地復興ボランティアに参加したから絶対に聖人。
健常者なのに優先席に遠慮なく腰かけていたから極悪人。
一面だけを見て人を判断することほど、愚かなことはきっとないのだ。就活中だから本当の自分があぶり出されてしまうのではなく、就活中だから混乱してみんなわけのわからないことをしてしまう。グループディスカッションでは確かにみんなが醜い部分を見せ合ったかもしれないが、そんなものはやっぱり、月の裏側の、ほんの一部にすぎないのだ。
しかしボールが隣のベンチに腰かけていたお婆さんの横をかすめていったとき、袴田亮は敢然と立ち上がって子供たちを叱りつけた。その口調は確かに厳しいものだったかもしれない。子供たちにとっては恐怖そのものだっただろう。それでも彼は逃げ出した子供を含めた全員を公園に集めると、いかにルールを守らないスポーツが危険なものであるのかを切々と説いた。一円の得にもならないのに、自身の休憩時間を使って、呆れるほど丁寧に語り続けた。
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