(柚木麻子著、祥伝社文庫)
「私、何気なく言ったわけ。この人、実は先輩なんですよね、って。広末って教育学部国語国文学科を中退してるじゃん。そしたら吉沢さん、なんて言ったと思う?『彼女を早稲女とは認められない』って。『自己推薦制度の入学なんて怪しい。あれだけ大騒ぎしたくせにろくに来ないで案の定退学して、人騒がせにも程があるって』。それでさあ、極めつけにこうだよ。『早稲女っていうのは香夏子ちゃんみたいに、何事にもひたむきで一生懸命で最後までやりとげる人のことを言うんだよな』って、決めつけ顔で目なんか細めちゃってさ!」
どうだ、というように大げさに両手を広げる姉に、習子は呆れてしまう。決して間違ったことを言っている訳ではない。長津田のような男と四年も付き合っていたくせに、この厳しいジャッジはなんなのだ。
「なんだ、その男?ワセ女フェチ?変わってんな~」
杉野さんは椅子からずり落ちんばかりだ。
「誰かを持ち上げるために、誰かを落とす。そういうのって私、好きじゃないの」
「褒められたのはお姉ちゃんなんだから、いいじゃない」
「そもそも私、褒められるとか無理。かゆい!吉沢さんって悪い人じゃないけど、かゆい発言多すぎて、時々いたたまれなくなるんだよね。それにさー、なんか話すことも超普通だし、意外性がないっていうか。一言で言うとつまんねーだもん。別に私、守ってくれるとか大事にしてくれるとか、そういうの必要ない人だし」」
「俺、早稲田在学中は本当にモテなかったから」
「え、嘘!そんな風に見えない」
「俺みたいなひねりのないタイプは、早稲田では全くモテないんだよ。初めて彼女ができたのは社会人になってからなんだ」
「信じられないです」
「面白い大学に行けば、自分も面白くなれるはずだと思っていたけど、そうでもなかったんだ。どこに行っても自分は自分だよ」



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